同性愛カップルを悩ます子供の「新学期問題」
「あっ、ミアがいる」と、川の向こう岸でキャンプをしている子が言った。「養子になってママが2人いる子だよね」
その子に悪気があったわけではないとミア(11)は思っている。とはいえいい気分ではなかったのは、キャンプから帰ってきて2人の母に話をしたことからも明らかだ。
「『わざわざそんなことを言うなんて、そしてその子たちが自分について覚えていることといえば、家族のことしかないなんておかしいよ』とだけあの子は言った」と母親のジェリー・ディベネデットは語る。
ディベネデットは進学先のマンハッタンの中学校での新たな生活がどうなるか思いをめぐらせている最中だ。「『カミングアウト』というまったく新しい体験が、あの子を待っているのだと思う」
数十年にわたる研究により、同性愛者のカップルを親にもつ子供たちは、異性愛者の両親のもとで育つ子供たちと発達面でも社会的・学業的な成長でも、性的志向においても変わりがないことが明らかになっている。
その一方で、同性愛者のカップルのもとで育つ子供たちの多くは、ミアに向けられたものと同じような不快な発言にさらされていることも明らかになっている。専門家はこうした心ない発言を「マイクロアグレッション」と呼ぶ。
悪気はないかもしれないし、嫌がらせというほどではないかもしれないが、ミアのような子供たちを変わった存在として扱い、「自分はみんなと違うんだ」という気持ちをいだかせてしまう。
最近の研究では、同性愛カップルの子供たちの58%は11歳までに、家族について、他人から悪口やマイクロアグレッションを言われる経験をするという。この研究は8月にトロントで開かれた米心理学会の年次総会で発表された。
「2人の父親がいる子供は、ほかの子から『で、ママはどこにいるの?』とか『どうしてママがいないの?』と聞かれるかもしれない」と、ケンタッキー大学のレイチェル・ファー准教授(発達心理学)は言う。ファーは同性愛カップルの養子として育てられた49人の子供を、幼稚園入園時から約8年にわたって追跡調査した
学校にせっせと顔を出す
ファーによれば、同性愛カップルの子供たちに投げかけられる質問や発言には、単なる好奇心や無知、もしくは「家族とはこういうものだ」という一般的なイメージから来るものもある。
「子供たちは自分の住む世界がどんなものか知ろうとしている。母親と父親がいる子供しか周囲にいなかったという可能性もある」。だが同性の両親をもつ子供たちにとってそうした発言は「乗り越えるのが難しいと感じられることもあるだろう」とファーは言う。
その結果、同性愛カップルは子供の通う幼稚園や保育園選びに非常に慎重になるし、積極的に子供の通う園や学校に関わっていくケースも多い。年度初めには担任の先生に会いに行って家族を紹介し、性別に中立な言葉を使うよう頼む。学校でのボランティア活動にも精を出し、子供の教室にしばしば顔を出す、といったようにだ。
だが子供が大きくなって中学や高校に進学すると、親は同じように学校に働きかけていくことができなくなる。
アトランタ郊外に住むウィリアム・キネーン(38)がパートナーと一緒に、6歳の娘ライリーが自宅近くでスクーターに乗っているのを見守っていたときのこと。近所の10〜11歳の女の子が近づいてきてこう聞いた。
「ねえ、どっちがライリーのお兄さんで、どっちがライリーのパパなの?」
キネーンはどちらもパパだよと答えた。するとその子は、ライリーのママと結婚しているのはどっち?と尋ねた。キネーンは、ライリーは養女なのだと説明した。質問はさらに続いた。
「あの子が養子というものについて誰からも聞いたことがなかったのは間違いない」とキネーンは言う。「あの日の晩、あの子の家の夕食の食卓の会話はいったいどうなったことやら」
ファーは、同性愛カップルの子供たちがほかの子供たちよりもいじめられることが多いのか、子供たちの対処機制がどんなもので、ストレスを乗り越える力はどのくらいかといったことを調べたいと考えている。研究では、子供たちの80%が自分たちの家族がよそと違うことを認識する一方で、自分の家族は「特別だ」と考えていることが明らかになった。
2人の父を持つ男の子は研究チームに対し、「男ばっかりの家族っていいよ」と語った。別の子は「うちの家族には白い人もいるし茶色い人もいる。よその家は全員白いか全員茶色いかどちらかかもしれないけど」と言った。
ある女の子は「ほかの子供たちから家族のことを言われるのはちょっと嫌だけれど、自分のことをどうこう言われているとは思わない。だって私が選んだわけではないから」と語った。その一方で彼女は「2人のママがいて幸せ」と言う。別の子は、「うちはとことん仲良しの虹色家族」だと言う。
親を心配させないようにと考える子供も
専門家によれば、同性愛カップルの子供たちは周囲に家族のことを説明する「小さな大使」の役割を果たすようになる例も多いという。
だが、養子を育てているカップル(同性愛者に限らない)について研究しているクラーク大学(マサチューセッツ州)のアビー・ゴールドバーグ准教授(心理学)によれば、中学生や高校生、つまり親に話をあまりしなくなる年代になった子供たちが、ほかの子供たちからどう扱われているかについてはわかっていない点も多い。成長するにつれ、子供たちは「同性愛者に対する偏見について親に話すのをためらうようになるかもしれない。親を心配させないために」とゴールドバーグは言う。
コネティカット州に住むケビン・ディックスには6歳の娘がいる。ディックスは自らも認める「過保護な親」で、親が学校に気軽に顔を出せなくなる日が来るのを怖れている。昨年度、彼は週に1時間、娘の教室でボランティアをしていた。
ディックスを中心に少人数のグループで本について話し合っていたときのこと。ある男の子がこう言った。「女の子同士は結婚できないんだよ。結婚できるのは男の子と女の子だけだ」
ディックスがどう答えようか考えていると、女の子が割り込んできてこう言った。「女の子同士だって結婚できるよ。男の子と男の子でもできるし」
今年度もディックスは娘のクラスで先生の手伝いをする予定だ。
「娘のことになるとちょっと心配性になってしまう」と彼は言った。「私が同性愛者であるせいで娘が嫌な目にあうのは避けたい。誰かが私の性的志向を気にしたとしても、それは私と彼らの問題であって、娘とは関係ないのだから」
(執筆:Roni Caryn Rabin記者、翻訳:村井裕美)
Ⓒ2015 New York Times News Service
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